ECや業務システムのリプレイスを検討していると、「拡張性のあるプラットフォームを選ぶべき」という言葉をよく耳にするのではないでしょうか。

しかし実際には、「カスタマイズと何が違うのか」「モノリスやヘッドレスとどう比較すればよいのか」「拡張性を評価する指標は何か」が曖昧なまま、ベンダー説明だけで判断してしまいがちです。

本記事では、拡張性のあるプラットフォームの定義から、拡張ポイント・API・アプリエコシステムといった具体的な仕組み、モノリス/ヘッドレスとの比較、導入・移行ステップ、リスクと評価指標までを整理します。

読了後には、自社の変更頻度や体制に合わせて、どのレベルの拡張性を持つプラットフォームを選ぶべきかを現実的に判断できるようになることを目指します。

この記事のポイント

  • 「拡張性」は、本体を壊さずに機能を追加・変更できる性質であり、単なるカスタマイズ性とは異なります。
  • 拡張ポイント・API・イベント・アプリ基盤・権限管理といった具体的な仕組みの有無が、プラットフォーム拡張性の質を左右します。
  • モノリス/ヘッドレス/拡張性の高いプラットフォームは、柔軟性だけでなく保守性・運用難度・TCOの観点から比較することが重要です。
  • 導入・移行時は、「変更頻度×事業インパクト」で優先領域を決め、段階的に拡張の型を適用することでリスクを抑えられます。
  • 拡張が増えるほど、セキュリティ・性能・コストのリスクも増えるため、ガバナンスと評価指標をセットで設計することが欠かせません。

目次

拡張性のあるプラットフォームとは(定義と“なぜ今必要か”)

プラットフォームのコア部分と周辺の拡張モジュールが分離され、時間とともに拡張が追加されていく様子を示す概念図で、拡張性のあるプラットフォームの全体像をイメージしやすくするための図解です。
コアと拡張を分離し、後からモジュールを追加できる構造が「拡張性のあるプラットフォーム」です。

本記事で扱う「拡張性」とは、本体のコア機能を大きく改修せずに、機能追加・変更・連携を行える性質を指します。

市場環境が安定していた時代は、要件を固めてから一体型のシステムを作り込む方法でもなんとか回っていましたが、ECでは決済・配送・マーケティングツール・法制度などが年単位で変化します。

この変化に追随するには、毎回本体を改修するのではなく、「触ってよい場所」をあらかじめ定義し、そこから拡張できるように設計されたプラットフォームが必要になります。

結果として、機能を止めずにアップデートに追随しやすくなり、長期的な保守コストと障害リスクの低減につながります。

要約ボックス:拡張性の要点(3〜5点)

拡張ポイント、API、アップグレード耐性、ガバナンス、開発者体験の5項目をチェックリスト形式で並べ、拡張性の判断軸を一目で把握できるようにしたインフォグラフィックです。
拡張性を評価するときは、仕組みだけでなく運用や開発者体験まで含めてチェックします。

まず、プラットフォームの拡張性を評価する際に押さえておきたいポイントを整理します。

重要なのは「抽象的な柔軟さ」ではなく、実際にどのような接続口とルールで拡張できるのかという具体です。

典型的には、次の5つが評価軸になります。

  • どの画面・どの処理に公式な拡張ポイントが用意されているか(テンプレート、チェックアウト、管理画面など)。
  • REST / GraphQLなどのAPIやWebhookなどイベント連携が、どの程度カバレッジ・安定性・バージョンポリシーを持っているか。
  • コアアップグレード時に、拡張の互換性をどのように保つかという方針(デプリケーションポリシー)が明文化されているか。
  • 権限設計・審査フロー・監査ログなどのガバナンス機能があるか。
  • SDK、ドキュメント、サンプルコード、CLIなど、開発者が素早く安全に拡張できるための開発者体験(DX)が整っているか。

この5点を満たすほど、「導入して終わり」ではなく、将来にわたって運用しながらスムーズに成長させられるプラットフォームと言えます。

「カスタマイズ」と「拡張」の違い

左側に本体コードへ直接手を加えるカスタマイズ、右側に公式ポートへ接続する拡張を並べ、アップグレード時のリスクや保守性の違いを視覚的に比較した二列の図です。
カスタマイズは本体に穴を開けるイメージ、拡張は公式ポートへ接続するイメージで捉えると違いが分かりやすくなります。

現場では「カスタマイズできます」と「拡張できます」が混同されがちですが、両者はアップグレード耐性という観点で大きく異なります。

カスタマイズとは、本体のコードや標準挙動を直接書き換えたり、想定外の方法でフックしたりするアプローチを指すことが多く、バージョンアップのたびに影響調査とテスト費用が膨らみやすいのが特徴です。

一方で「拡張」は、プラットフォームが提供する公式な拡張ポイントやAPIを経由して機能を追加する前提のため、コアと拡張が疎結合になり、互換性を保ちやすくなります。

イメージとしては、カスタマイズ=本体に穴を開けて配線を直接差し込むのに対し、拡張=あらかじめ用意されたポートにプラグインを挿す状態です。

短期の要件を満たすだけであればカスタマイズでも成立しますが、中長期でのTCOや人材の入れ替わりを考えると、「どこまでを拡張で解決するのか」を最初に決めておくことが重要になります。

拡張性が求められる代表シーン(EC/業務)

中央にECプラットフォームのアイコンがあり、その周囲に決済、配送、税制、CRM、アナリティクス、ロイヤリティなどの外部サービスアイコンが接続されている模式図で、拡張が必要になりやすい領域を示しています。
決済・配送・税制・CRMなど、外部サービスとの接続が多い領域ほど拡張性の重要性が高まります。

ECや業務システムの現場で、「拡張性が足りない」と感じるのはどのような場面でしょうか。

代表的なのは、新しい決済手段や配送オプション、インボイス対応など税制変更、越境ECの通貨・税率・配送要件、MA・CDPなどマーケティングツールとの連携といった、外部要因で要件が頻繁に変化する領域です。

こうした領域を本体改修で都度対応していると、テスト範囲が広がり、障害時の切り分けも難しくなります。

逆に、決済や配送などをAPI/イベントを使った拡張として扱えれば、「本体は安定したまま、外側で自由に差し替えられる」構成になり、スピードと運用負荷の両面でメリットがあります。

拡張性を支える仕組み:拡張ポイント・API・アプリエコシステム

コアサービス層の上にAPIやWebhook、拡張ポイント、アプリマーケットプレイスがレイヤー状に重なり、全体として拡張性を実現している構造を示す図で、拡張の主要コンポーネントを俯瞰できるインフォグラフィックです。
拡張性は、APIやイベント、拡張ポイント、アプリ基盤、権限管理といった複数の層の組み合わせで実現されます。

拡張性は理念だけで決まるものではなく、どのような仕組みをどこまで用意しているかで決まります。

拡張ポイント、API/イベント連携、アプリマーケットプレイス、権限管理・監査ログなどがセットで揃っているほど、現場で安全かつ高速に拡張しやすくなります。

ここでは、それぞれの役割と、選定時に見るべきポイントを整理します。

拡張ポイント(Extension points)の設計が品質を決める

EC管理画面やチェックアウト画面を模したシンプルなワイヤーフレームの中で、アプリが差し込める領域だけがハイライトされ、その他のコア領域は淡く表示されている図で、触ってよい拡張ポイントを明示しています。
どのUI・どのフローが拡張可能なのかが明確であるほど、安全な拡張がしやすくなります。

拡張ポイントとは、「ここにアプリを差し込んでも良い」という公式なスロットのことです。

テンプレートの特定セクション、チェックアウトフローの特定ステップ、管理画面のサイドバーなど、触ってよい領域が明確に定義されているほど、改修の影響範囲を局所化できます。

例えばShopifyでは、テーマ拡張やチェックアウト拡張、Admin拡張などの形で拡張ポイントを定義しており、アップデート時の互換性ポリシーも合わせて公開しています[1]

選定時には、「どの画面に、どのくらい細かく拡張ポイントが用意されているか」「レイアウトやデータ取得の制約がどこまで明記されているか」を確認すると、将来の実装余地を具体的にイメージしやすくなります。

API/イベント駆動(Webhook等)で外部連携を標準化する

左側に同期的なAPIリクエストとレスポンスの流れ、右側に非同期でプラットフォームから外部サービスへイベントをプッシュするWebhookの流れが並んだ図で、それぞれの特性や再試行のポイントを示しています。
APIはオンデマンドな問い合わせ、Webhookはイベント通知として使い分けることで、外部連携を標準化できます。

次に重要なのが、REST / GraphQLなどのAPIと、Webhookなどのイベントベースの連携機構です。

商品や在庫、注文、顧客などの主要リソースについて、CRUD操作や検索が行えるAPIが揃っているほど、新規の外部サービス連携や既存システムとのデータ連携を「本体改修なし」で行いやすくなります。

また、注文作成や支払完了などのイベントをWebhookで通知できれば、外部システム側で非同期に処理を行えるため、コアのレスポンス性能や安定性を保ちながら機能を拡張できます。

運用面では、再試行やタイムアウト、署名検証、キューイングなどのベストプラクティスも重要です。

API/イベントのドキュメントがどれだけ整っているか、SDKやサンプル実装が提供されているか、といった観点もあわせて確認すると良いでしょう[2]

アプリ・マーケットプレイスと開発者体験(DX)

要件定義、アプリ選定、権限設計、インストール、導入後の監視という5ステップが横並びに配置され、それぞれにアイコンが添えられているアプリ導入ライフサイクルの図です。
アプリ導入は、要件定義から権限・審査、モニタリングまでを一連のプロセスとして捉えることが重要です。

拡張性の高いプラットフォームでは、アプリや拡張機能を再利用可能な単位として配布できる仕組み(マーケットプレイス)が整備されていることも多くあります。

公式/パートナー製アプリをカタログから選択し、必要な権限を確認してインストールし、導入後もバージョンアップや料金プランを一元管理できると、内製と外部サービスの組み合わせを柔軟に最適化できます。

開発者にとっては、APIクライアントやUIコンポーネントライブラリ、ローカル開発ツール、テスト環境などが提供されているかどうかも重要です。

これらが揃っているほど、同じチーム・同じ予算でも、より多くかつ品質の高い拡張を安全に提供できるようになります。

比較でわかる:モノリス/ヘッドレス/拡張性の高いプラットフォーム

モノリス、ヘッドレス、拡張性の高いプラットフォームの3列と、速度、アップグレードリスク、柔軟性、ガバナンス、コストといった評価軸を行に持つ比較表で、それぞれの強みと弱みを視覚的に対比しています。
同じ「柔軟」と言っても、モノリス・ヘッドレス・拡張性の高いプラットフォームではアプローチが異なります。

「柔軟な構成にしたい」という要望に対して、モノリス、ヘッドレス、拡張性の高いSaaSプラットフォームなど、複数のアプローチが存在します。

どれが優れているという単純な話ではなく、自社の体制や予算、求めるスピードによって適切な解が変わります。

ここでは、それぞれの特徴とトレードオフを整理し、どのような段階でどこを目指すのかを考える材料にします。

モノリスの強みと限界(短期最適→長期負債)

時間を横軸、保守コストを縦軸にしたシンプルな折れ線グラフで、初期は緩やかなコスト増だが、カスタマイズが増えたポイントを境に急激に保守コストが増加するモノリスの傾向を表した図です。
モノリスは短期の開発速度に優れる一方で、カスタマイズが増えるほど保守コストが急増しやすくなります。

モノリス(一体型)アーキテクチャは、最初からすべてを一つのアプリケーションとして構築するスタイルです。

初期フェーズでは、コードベースが一つであることから理解しやすく、環境構築やデプロイも比較的簡単で、短期的な開発速度に優れます。

しかし、要件追加や個別のカスタマイズが積み重なるほど、コードの依存関係が複雑化し、「どこを触るとどこが壊れるのか」が分かりづらくなります。

特にECのように変更が多い領域では、数年経つと、アップデートが怖くて止めざるを得ない、特定の開発者にしか分からない、テスト工数が膨れ上がるといった、いわゆる長期負債化の兆候が現れやすくなります。

モノリスを採用する場合は、どのタイミングで部分的な分離やSaaSへの移譲を検討するか、あらかじめ出口戦略を想定しておくことが重要です。

ヘッドレスの適性(自由度と運用難度のトレードオフ)

フロントエンド、バックエンド、連携ミドルウェアの3ブロックが分かれて配置され、それぞれに監視、キャッシュ、セキュリティ、CI/CDといった運用項目の注釈がついたヘッドレスアーキテクチャの構成図です。
ヘッドレス構成はフロントの自由度が高い一方で、運用すべき領域や責任範囲も広がります。

ヘッドレスコマースは、バックエンド(コマース機能)とフロントエンド(表示・体験)を切り離し、APIで連携するアーキテクチャです。

自社独自のデザインや体験を実現しやすく、複数チャネル(Web、アプリ、店舗端末など)で同じバックエンドを利用できるなどのメリットがあります。

一方で、フロントとバックエンドの間にキャッシュや認証、ロギング、エラーハンドリングなどの責任範囲が増え、運用や監視の難度が上がる点には注意が必要です。

チームのスキルセット、24/7の運用体制、障害時の切り分けフローなどを考えずにヘッドレス化すると、「柔軟だが運用が回らない」状態になりかねません。

拡張性の高いプラットフォームが狙うバランス

一方に安定したコア、もう一方に柔軟な拡張モジュールを載せた天秤があり、その間をContracts/APIsとラベル付けされた橋がつないでいる図で、安定性と柔軟性を両立する拡張性の高いプラットフォームの思想を表現しています。
安定したコアと柔軟な拡張を、契約(API・拡張ポイント)によってつなぐのが拡張性の高いプラットフォームの狙いです。

モノリスとヘッドレスの中間に位置づけられるのが、「拡張性の高いプラットフォーム」です。

コアのコマース機能やデータモデル、決済周りなどはベンダーが責任を持って提供・運用し、その上に拡張ポイントやAPI、アプリエコシステムを用意することで、「変えてはいけない部分」と「自由に変えてよい部分」を明確に分けます。

このアプローチでは、コアはSaaSとして安定してアップデートされ続けつつ、拡張は契約に基づいて接続されるため、アップグレード時の互換性や障害時の切り分けも行いやすくなります。

すべてを自社開発するのではなく、コアはベンダー、差別化部分は自社拡張と役割分担することで、スピードとTCOのバランスをとるのが、このタイプのプラットフォームが目指す姿と言えます。

導入・移行の進め方:拡張性を“運用できる”設計にする

現状評価、拡張境界の定義、連携構築、段階的な移行、本番運用と最適化といったフェーズが順番に並ぶロードマップ図で、拡張性の高いプラットフォーム導入の全体像を示しています。
拡張性の高いプラットフォームへの移行は、段階的なロードマップとして計画することでリスクを抑えられます。

拡張性の高いプラットフォームを選んだとしても、導入と運用設計を誤ると本来の価値を発揮できません。

特に既存システムからの移行では、「一気に全部載せ替える」のではなく、拡張の優先度が高い領域から段階的に移行していくことが現実的です。

ここでは、現状棚卸しからガバナンス設計、よくある落とし穴まで、実践的な進め方のポイントを整理します。

現状の要件と変更頻度を棚卸し(拡張の優先順位付け)

横軸に変更頻度、縦軸に事業インパクトをとった2×2マトリクスで、右上の高頻度・高インパクト領域が強調表示され、そこを優先的に拡張対象とする考え方を示しています。
変更頻度と事業インパクトの両面から、どの領域から拡張していくかを決めます。

最初のステップは、「全てを拡張対象にする」のではなく、どの領域から着手すべきかを整理することです。

おすすめは、機能や業務を「変更頻度」と「事業インパクト」の2軸でマッピングし、右上(頻度もインパクトも高い領域)から拡張性の高い構成に寄せていく方法です。

たとえば、プロモーション施策やクーポンロジック、マーケティング連携などは、事業側の要望が頻繁に変わることが多く、拡張の優先候補になります。

逆に、会計や在庫などの基幹領域は、要件自体は比較的安定している一方で、影響範囲が広くリスクも高いため、最初から大きく構成を変えるよりも、インターフェースを整備しながら段階的に見直すのが現実的です。

ガバナンス:権限・審査・バージョン管理・互換性テスト

拡張の申請、セキュリティレビュー、承認、デプロイ、本番監視という流れが矢印でつながったフローチャートで、それぞれに開発、セキュリティ、運用チームの役割がラベル付けされています。
拡張が増えるほど、申請・審査・デプロイ・監視までを含むガバナンスプロセスが重要になります。

拡張を増やしていくと、同時に「事故が起きる確率」も上がります。

そのため、プラットフォーム側の機能だけでなく、社内でのガバナンスプロセスを設計しておくことが欠かせません。

たとえば、新しいアプリや拡張を追加する際には、開発チームからの申請 → セキュリティ・プライバシー観点でのレビュー → 承認 → 検証環境へのデプロイとテスト → 本番反映 → 監視設定といった流れを、ワークフローとして定義します。

併せて、APIのバージョン管理や互換性テストを自動化し、コアのアップデートやアプリの更新が行われたときに、どの拡張に影響が出るかを早い段階で検知できるようにしておくと安心です。

よくある落とし穴(“拡張できる”のに拡張できない状態)

非公式なコア改修、密結合な実装、監視不足、ドキュメント欠如という4つの落とし穴を警告アイコン付きのチェックリスト形式で示し、避けるべきパターンを分かりやすくまとめた図です。
プラットフォーム自体が拡張性を持っていても、運用や実装次第でその価値を殺してしまうことがあります。

プラットフォームとしては拡張性が高くても、実際のプロジェクトでその価値が十分に活かされないケースもあります。

代表的な落とし穴としては、次のようなものがあります。

  • 公式にサポートされていない方法でコアを改修してしまい、アップデートに追随できなくなる。
  • 拡張同士や外部システムとの結合が強く、ある変更が別の機能を壊してしまう。
  • 監視やログ設計が不十分で、障害時にどこが悪いのか分からない。
  • 実装や設計の意図がドキュメント化されておらず、担当者変更のたびに暗黙知が失われる。

これらを防ぐには、「公式の拡張ポイント/APIを優先して使う」「依存関係を図として整理する」「監視とアラートの基準を決める」「最低限の設計ドキュメントを残す」といったチェックリストをプロジェクトに組み込んでおくとよいでしょう。

リスクと評価指標:セキュリティ・性能・コストをどう担保するか

セキュリティ、性能、コスト、コンプライアンスの4象限を持つフレームワーク図で、それぞれの象限に代表的な指標例が記載され、拡張性を評価する際の観点を整理しています。
拡張性を評価するときは、機能だけでなくセキュリティ・性能・コスト・コンプライアンスの観点をセットで見る必要があります。

拡張性を高めるということは、同時に攻撃面や複雑性を増やすことでもあります。

そのため、導入時や比較検討時には、セキュリティ・性能(信頼性)・コスト(TCO)といった観点で、「どこまでをプラットフォームが担保してくれるのか」「どこからが自社の責任か」を見極める必要があります。

ここでは、特に重要になりやすい3つの観点と、その評価指標の例を紹介します。

セキュリティ:権限最小化とデータ境界(PII/決済)

個人情報や決済データを含む領域が枠で囲まれ、そこへアクセスできる拡張コンポーネントが限定されている様子と、鍵アイコンや監査ログを示す記号が組み合わさった図で、データ境界と権限制御の考え方を表しています。
個人情報や決済データを扱う領域は、拡張からのアクセスを最小限に絞り、監査可能な形にすることが重要です。

まず重要なのが、権限とデータ境界の設計です。

拡張アプリに与える権限は、必要最小限にとどめ、「全データへのフルアクセス」を前提にしないことが基本です。

特にPII(個人を特定できる情報)や決済情報は、プラットフォーム側の保護されたゾーンに留め、拡張からはトークン化された情報や集約済みデータにのみアクセスさせるといった設計が求められます。

また、「誰がいつどのデータにアクセスしたか」が監査ログとして残るか、APIキーやOAuthクライアントなどの秘密情報をどのように管理・ローテーションできるかも、プラットフォーム選定時の重要なチェックポイントです。

性能と信頼性:拡張がボトルネックにならない設計

プラットフォームからキューを経由して外部サービスへリクエストが流れ、間にサーキットブレーカーと再試行ロジックが挟まれているフロー図で、外部連携に対する耐障害設計のパターンを表現しています。
外部連携は遅延や障害を前提に、キューやサーキットブレーカーなどで本体の安定性を守る設計が有効です。

拡張や外部連携が増えると、レスポンス遅延や障害の影響をどう吸収するかが課題になります。

たとえば、チェックアウト中に外部在庫システムへのAPI呼び出しがタイムアウトした場合、そのままUIが固まってしまうと機会損失が発生します。

これを防ぐには、キューやバッファを挟んで処理を非同期化したり、失敗時に即時フォールバックするサーキットブレーカーを用意したりといった、いわゆるレジリエンスパターンを設計に組み込む必要があります。

プラットフォーム側で、Webhooksの再試行ポリシーやレートリミット、タイムアウト値などがどこまで提供されているか、自社側でカバーすべき部分はどこかを整理したうえで、SLO/SLI(例:99.9%の応答成功率、P95レスポンスタイムなど)を定義するのが望ましいです。

コストとTCO:開発費だけでなく運用費・更新費で見る

開発、運用、アップグレード、障害対応、ベンダー管理といった項目が積み重ね棒グラフで表示され、総所有コスト(TCO)がどの要素から構成されているかを視覚化した図です。
拡張性の価値は、実装コストだけでなく、運用・アップグレード・障害対応を含めたTCOで評価する必要があります。

最後に、コストの観点です。

プラットフォーム選定時は、初期開発費に目が行きがちですが、拡張性の良し悪しは「維持するためのコスト」に大きく影響します。

たとえば、コアが自動でアップデートされ、拡張は互換性ポリシーに従って段階的に移行できる仕組みがある場合と、毎回すべてのカスタマイズの影響調査とテストを手作業で行う必要がある場合では、数年単位で大きな差が出ます。

また、障害発生時の切り分けやベンダーとの調整にかかるコスト、監視・アラートの運用コストも、長期的には無視できません。

初期費用だけでなく、3〜5年スパンでのTCOを試算し、「多少ライセンス費が高くても、運用とアップデートが楽になる方が結果的に安い」というケースも検討に値します。

よくある質問(FAQ)

ここでは、「拡張性のあるプラットフォーム」に関して、EC事業者や情シス、開発チームからよくいただく質問をまとめました。

拡張性のあるプラットフォームとは何ですか?

拡張性のあるプラットフォームとは、コア機能を大きく改修せず、公式の拡張ポイントやAPI、アプリ連携によって機能追加・変更を行える設計のプラットフォームです。

コアと拡張の境界が明確なため、アップデート耐性と保守性を保ちやすく、中長期のTCOを抑えやすい点が特徴です。

拡張性とカスタマイズ性の違いは?

カスタマイズ性は、「どこまで本体仕様を変えられるか」という観点で語られることが多く、本体コードや標準挙動の直接変更も含みます。

一方で拡張性は、「用意された接続口(拡張ポイント/API)を通じてどこまで機能を足せるか」という発想であり、コアに手を入れずに要件を満たせる範囲が広いほど高いと言えます。

ヘッドレスコマースにすれば拡張性は十分ですか?

ヘッドレスはフロントエンドの自由度を高める選択肢であり、必ずしも「拡張性が十分」という状態と同義ではありません。

重要なのは、バックエンド側にどのようなAPIやイベントがあり、拡張ポイントやガバナンスの仕組みが整っているかどうかです。

ヘッドレスを採用する場合でも、「プラットフォームとしての拡張性」が十分かどうかを別途評価する必要があります。

拡張性の高いプラットフォームを選ぶチェックポイントは?

主なチェックポイントとしては、次のような項目があります。

  • 拡張ポイントの種類と範囲(UI、フロー、データなど)。
  • API/イベントの網羅性、安定性、バージョニングポリシー。
  • 権限管理や監査ログ、アプリ審査プロセスなどのガバナンス。
  • アップデート時の互換性ポリシーとデプリケーションの扱い。
  • テスト環境やモニタリングとの統合のしやすさ。
  • 開発者ドキュメントやSDK、サンプルコードの品質。

特に、自社で頻繁に変えたい領域が公式の拡張対象になっているかどうかが重要です。

拡張を増やすとセキュリティリスクは上がりますか?注意点は?

一般に拡張が増えるほど、攻撃面と運用の複雑性は増えます。

対策としては、権限の最小化(最小権限の原則)、PII/決済データの境界設計、アプリ審査フロー、依存関係管理、監査ログ、脆弱性対応の手順(更新・停止判断)をあらかじめ仕組み化しておくことが有効です。

段階的に拡張性の高い構成へ移行するにはどうすればいい?

はじめからすべてを理想構成にするのではなく、変更頻度とインパクトが高い領域から優先的に拡張性の高いパターンへ置き換えるのが現実的です。

具体的には、まず既存システムの中で「壊れやすく何度も直している部分」を特定し、そこを公式API/イベント連携や拡張ポイントを使った構成へ移行します。

同時にテスト自動化や監視、権限・審査プロセスなどのガバナンスを整えることで、徐々に拡張対象を広げていくアプローチがリスクを抑えやすいです。

まとめ:拡張性のあるプラットフォーム選定の勘所

拡張性のあるプラットフォームとは、コアの安定性を守りながら、公式の拡張ポイントやAPI、アプリ連携によって変化に追随できる設計を持つプラットフォームです。

モノリス/ヘッドレス/拡張性の高いプラットフォームにはそれぞれ強みとトレードオフがあり、「自由度」だけでなく、保守性・運用難度・TCOの観点から比較することが重要です。

導入・移行にあたっては、変更頻度と事業インパクトから優先領域を決め、拡張ポイントとAPI/イベントを活用しながら、段階的に構成を最適化していくことが現実的なアプローチになります。

同時に、拡張が増えるほどセキュリティ・性能・コストのリスクも増えるため、権限設計や監査ログ、SLO/SLI、TCOの試算など、ガバナンスと評価指標をセットで設計することが欠かせません。

自社の体制や事業計画を踏まえ、「どのレベルの拡張性を今求めるべきか」「将来どの段階まで段階移行したいか」を明確にしたうえで、パートナーやベンダーと具体的な構成を検討していくとよいでしょう。

参考文献・引用元

  1. Shopify公式ドキュメント - 開発者ドキュメント
  2. Shopify公式ドキュメント - API リファレンス
  3. Shopify Engineering Blog - アーキテクチャと拡張性に関する記事
  4. Martin Fowler - Microservices(モノリスと分割アーキテクチャの比較)