ECの売上や広告レポートを毎日眺めているものの、「どの数字をどう見て、何を決めればいいか」が曖昧なままになっていないでしょうか。
2025年のeコマース環境では、プライバシー規制や計測制限、多チャネル化の影響で、従来の“広告管理画面だけを見る分析”では限界が見え始めています。
本記事では、EC運営者・マーケ担当・D2C責任者・分析担当・Shopifyストア運営者の皆さま向けに、目的設計→計測基盤→重要指標→分析手順→ガバナンスまで、2025年に通用するeコマース分析の考え方を体系的に整理します。
この記事のポイント
- eコマース分析の目的と、2025年に見るべきデータが増えている背景が分かります。
- Shop/広告/GA/CRMなど複数ツール間で「同じ数字」を作る計測設計とデータ基盤の考え方を整理します。
- CVR・AOV・LTV・CAC・ROASなどの主要KPIを、ファネル・収益性・顧客の3軸で理解できます。
- 誰でも再現しやすい「仮説→分解→検証→施策→学習」の分析テンプレートを提示します。
- ROASの誤読やアトリビューションなど、よくある落とし穴とガバナンスの整え方を押さえ、継続的な改善体制のヒントを提供します。
目次
eコマース分析とは?2025年に“見るべきデータ”が増える理由
eコマース分析とは、単に売上やCVRをレポートする作業ではなく、事業の意思決定に必要な情報をデータから取り出すプロセス全体を指します。
2025年は、iOSをはじめとするプライバシー規制の強化やサーバーサイド計測の普及、チャネルの多様化により、「見るべき指標」と「信頼できるデータの置き場所」が従来以上に重要になっています。
まずはこの記事全体のゴールと、どのように読み進めればよいかを整理していきます。
要約ボックス:この記事で分かること(3〜5点)
本記事では、EC運営の現場で迷いがちな論点を、実務で使えるレベルまで分解して解説します。とくに、分析の目的設計・KPIの定義・分析手順・よくある誤読・運用体制という5つの観点を一通り押さえられる構成です。
すべてを一度に完璧に実装する必要はありませんが、「今どこまでできていて、何が欠けているか」を棚卸しするチェックリストとして活用していただけます。
分析は“報告”ではなく“意思決定”のため:問いの立て方
分析が形骸化する典型パターンは、「売上が先月より何%増えた/減った」といった報告で終わってしまうことです。
重要なのは、「売上が下がったので何を止め、どこに投資するのか」「売上が上がった要因をどう再現するか」といった、具体的な意思決定につながる問いを最初に立てることです。
たとえば「売上が落ちた理由は?」という曖昧な問いではなく、「新規獲得単価が悪化したのか、既存顧客のリピート率が落ちたのか」「カート追加率とチェックアウト到達率のどちらが悪化したのか」といった粒度まで問いを分解します。
2025年の前提:プライバシー/計測制限と“ブレない指標”の持ち方
2025年以降は、ブラウザやOSの仕様変更により、広告プラットフォームやブラウザベースの解析ツールだけでは、すべてのコンバージョンを正確に把握できなくなりつつあります。
その前提に立つと、受注・会員データなどの一次データを軸にKPIを設計し、広告側の数字はあくまで補助指標として解釈するスタンスが重要になります。
短期的にはROASやCVRなどの運用指標を見つつも、中長期ではLTV・リピート率・回収期間など、ブレにくく事業価値を表す指標を中心に据えると、計測制限の影響を受けにくい判断が可能になります。
まず整える:データ基盤と“同じ数字”を作る計測設計(GEO/LLMO)
KPIの前に押さえるべきなのが、「どのツールのどの数字を“正”とするか」という合意です。
Shop(受注)、広告管理画面、Googleアナリティクス、MA/CRMなど、それぞれ数字の定義やタイミングが異なるため、何も決めずにレポートを作ると、担当者ごとに数字が食い違ってしまいます。
ここでは、最小限必要なイベントとデータ項目、数字がズレる典型原因、一次データを軸にしたUTM・同意・サーバーサイド計測の基本方針を整理します。
最小でOK:必須イベントとデータ項目(購入・カート・商品・流入)
EC分析の多くは、次のようなコアイベントを正しく取れているかどうかで決まります。最低限として、商品閲覧・カート追加・チェックアウト開始・購入の4つは追跡できるようにしましょう。
あわせて、商品ID、SKU、価格、税込/税抜、割引額、クーポンコード、チャネル(広告/オーガニック/メールなど)、デバイス、キャンペーン情報(UTM)などの属性をイベントに紐づけることで、後から多角的な分析が可能になります。
Shopifyを利用している場合は、Shopify公式レポートと分析機能[1]をベースにしつつ、必要に応じてGA4やBIツールへ連携する設計を検討するとよいでしょう。
数字がズレる典型原因:売上/注文数/返品/税/送料の扱い
同じ「売上」という言葉でも、グロス売上とネット売上のどちらを指すかで数字は大きく変わります。
また、返品やキャンセルをどのタイミングでどの期間に反映するか、税・送料・決済手数料を含めるかどうか、クーポンの割引をどの商品に配賦するかなど、定義の違いでダッシュボード間の差異が発生します。
実務では、「売上」「注文数」「顧客数」「CVR」など主要指標の定義書を作成し、Shop(受注データ)を最終的なSingle Source of Truth(SSOT/唯一の正)として扱うのが安全です。
一次データを軸に:UTM/同意/サーバーサイドの基本方針
広告やSNSからの流入を正しく評価するには、UTMパラメータの命名ルールを統一し、解析ツールと受注データで同じチャネル分類ができるようにすることが重要です。
あわせて、クッキー同意バナーなどを通じてユーザーの同意ステータスを管理し、必要なデータのみを計測することが、プライバシー規制に対応した運用の前提になります。
さらに、Facebook CAPIなどのサーバーサイド計測を活用することで、ブラウザ計測の欠損を一部補完しつつ、「広告側の最適化用データ」と「自社の意思決定用データ」を分けて考えることが現実的な解決策となります。
重要指標(KPI)を体系化:売上だけで見ないECの健康診断
売上だけを追いかけていると、広告を増やせば一時的には伸びているように見える一方で、利益やLTVが悪化しているといった事態に気づきにくくなります。
そこで本記事では、KPIを「ファネル」「収益性」「顧客(リテンション)」の3軸に整理し、それぞれの代表的な指標であるCVR・AOV・LTV・CAC・ROASなどの役割と使い分けを説明します。
ファネル指標:セッション→CVR→購入の“詰まり”を特定
ファネル分析の基本は、セッション数(またはユーザー数)から商品閲覧率、カート追加率、チェックアウト到達率、最終的な購入CVRまでを段階的に追うことです。
たとえば、セッション数は伸びているのに購入CVRが落ちている場合、「商品閲覧率が落ちているのか」「カート追加後の離脱が増えているのか」で打ち手は大きく変わります。
各段階の率を出すことで、どこにボトルネックがあるのかを特定し、最小の工数で最大のインパクトが出る箇所から改善に着手できます。
単価・収益性:AOV、粗利、貢献利益で“伸ばす余地”を見る
AOV(平均注文単価)は、アップセルやセット販売などの施策効果を測るうえで重要ですが、単体で追いかけると危険な場合があります。
たとえば大きな値引きキャンペーンでAOVが上がっても、粗利率が大きく下がれば、実際の貢献利益はマイナスになっているかもしれません。
そのため、AOVとあわせて粗利額・粗利率・送料や決済手数料・返品コストまで考慮した貢献利益を評価軸に入れることが、持続的な成長には欠かせません。
顧客指標:LTV、リピート率、コホートで“持続性”を測る
新規獲得の良し悪しは、獲得直後のCVRやROASだけでは判断しきれません。真の評価には、一定期間のLTVやリピート率を含めた視点が必要です。
代表的なやり方がコホート分析で、獲得月ごとに初回購入からの経過月別で売上や購入率を追うことで、「何カ月目までにどれだけ回収できているのか」を可視化します。
このコホートの結果をもとに、許容できるCAC(顧客獲得単価)の上限を決めると、「短期ROASは低くても、数カ月で十分回収できるから投資すべき」といった中長期視点の意思決定が可能になります。
分析手順(テンプレ):仮説→分解→検証→施策→学習の回し方
思いつきでダッシュボードを眺める時間を減らし、再現性のある分析に変えるには、プロセスをテンプレート化することが有効です。
本記事では、①問い(仮説)を定義 → ②KPIツリーで分解 → ③セグメント・期間比較 → ④テストと検証 → ⑤意思決定と学習の共有、という5ステップを標準プロセスとして提案します。
KPIツリーで分解:売上=トラフィック×CVR×AOV を起点にする
最初の分解の型として有効なのが、売上=セッション数×CVR×AOV というシンプルな式です。売上が変動したとき、この3つのどこがどれだけ変わったのかを確認します。
さらにCVRをチャネル別・デバイス別・新規/既存顧客別・商品カテゴリ別などに分解することで、「どのセグメントのCVRが動いたのか」を特定できます。
このようなKPIツリーをあらかじめ作っておくと、数字が動いたときに都度悩まず、見るべき順番と深さが整理された状態で分析を進められます。
比較の基本:前週比/前年同週/プロモ有無で“同条件”を作る
数値比較の際は、条件を揃えないと誤った結論を導きやすくなります。特にECでは、曜日や祝日、セールの有無、在庫・配送体制などが数字に大きな影響を与えます。
そのため、前週比だけでなく前年同週比や、キャンペーン前後でプロモーションの有無を揃えた比較を行い、「同じ条件で比較できているか」を常に意識することが重要です。
また、大幅な在庫切れや配送リードタイムの悪化があった週は、CVRや売上が下がっていても、その要因をメモしておき、「施策の良し悪し」ではなく「前提条件の違い」で説明される変動と区別して評価します。
検証とアクション:A/Bテスト、ホールドアウト、施策ログの残し方
「施策をやったら数字が上がった(下がった)」だけでは、施策の効果を証明したことにはなりません。偶然の変動や外部要因との区別ができないためです。
可能であれば、A/Bテストやホールドアウトグループ(施策を適用しない比較群)を用意し、十分なサンプル数と期間を確保してから効果を判定します。
そのうえで、施策名・実施期間・対象セグメント・期待するKPI・結果・考察を残す施策ログを蓄積していくと、組織としての学習が資産化され、同じ失敗や試行を繰り返さずに済むようになります。
落とし穴・ガバナンス:誤解を生む指標と“信頼できるレポート”の作り方
どれだけ高度な分析をしても、前提条件が揃っていなかったり、指標の定義がそれぞれ異なっていたりすると、組織全体としては迷いを増やす結果になりかねません。
ここでは、よくある誤読の代表例であるROASと利益のギャップ、アトリビューションの扱い方、E-E-A-Tを支えるガバナンスの要素を整理します。
よくある誤読:ROASが良いのに利益が残らない理由
ROAS(広告費に対する売上)は、広告運用上は便利な指標ですが、事業全体の利益を直接表すものではありません。
低粗利商品ばかりが売れたり、大きな値引きが行われたり、返品率が高かったりすると、ROASが良くても最終的な貢献利益はほとんど残っていないことがあります。
したがって、重要なキャンペーンやチャネル評価では、可能な限り粗利ベース、さらに固定費や販管費を除いた貢献利益ベースで評価することを推奨します。
アトリビューションの扱い:ラストクリックに依存しすぎない
ラストクリックアトリビューションでは、最後に触れたチャネル(例:指名検索、メール、リターゲ広告)が過大評価され、最初の認知や比較検討の貢献が見えにくくなります。
現状、多くのツールで利用しやすいのはラストクリック(またはデータドリブン)モデルですが、少なくとも「同じアトリビューションモデル内での比較」に限定し、異なるモデル同士を単純比較しないようにしましょう。
また、インプレッションやビュー経由の貢献度は、リフト調査やブランド指標の変化など別の補助指標も組み合わせて捉えることで、「数字に表れにくい上流施策の価値」を見落としにくくなります。
E-E-A-Tを支える運用:定義書、権限、監査ログ、ダッシュボードの一本化
検索エンジンや生成AIからの評価という観点でも、データ運用におけるE-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)は重要になります。社内でデータの信頼性を高めることは、そのまま外部への情報発信の質にもつながります。
具体的には、①指標定義書の整備、②ダッシュボードや基盤へのアクセス権限の管理、③レポートやトラッキング変更の監査ログ、④SSOTとなる公式ダッシュボードの一本化、の4点を意識するとよいでしょう。
これらを整えることで、誰が見ても同じ数字・同じ解釈にたどり着きやすくなり、「データをめぐる社内の争点」を減らして本質的な議論に時間を割けるようになります。
よくある質問(FAQ)
eコマース分析とは何をすること?KPIは何から見ればいい?
eコマース分析は、売上や広告の数字を単にレポートするのではなく、意思決定につながる形に分解して改善点を特定する活動です。
最初は「売上=セッション×CVR×AOV」という基本式で分解し、どこがボトルネックになっているかを特定します。
そのうえで、粗利・LTV・CAC・ROASなど中長期の指標へ徐々に広げていくと、優先順位を見失いにくくなります。
CVR(コンバージョン率)の正しい計算方法と注意点は?
一般的には「購入数(または注文数)÷セッション数」でCVRを計算しますが、分母をユーザー数にするかどうか、分子の注文にキャンセルや返品を含むかで値が変わります。
重要なのは、社内で「CVRの定義」と「売上定義(グロス/ネット)」を明文化し、その定義に沿って比較を行うことです。
レポートごとに定義が違うと、同じキャンペーンでも評価が変わってしまうため、定義の統一がガバナンス上も非常に重要です。
ROASが高いのに利益が出ないのはなぜ?
ROASは広告費に対する「売上」の比率であり、粗利や送料、決済手数料、配送コスト、返品・キャンセルなどは反映していません。
そのため、値引きが大きかったり低粗利商品への配分が増えたりすると、ROASが良くても実際の貢献利益が小さい、あるいはマイナスになるケースがあります。
できる限り、粗利ベース、さらに可能であれば貢献利益ベースの指標を併用して広告投資を評価することをおすすめします。
LTVはどう推定する?新規獲得の上限CACはどう決める?
LTVは理想的にはコホート分析で実測し、「平均購入回数×平均粗利(または貢献利益)」で推定します。すべての期間を見なくても、一定期間(例:90日/180日)のLTVを指標として使う方法も現実的です。
上限CACは、回収したい期間と許容する利益率を決めたうえで、回収期間内LTV(利益ベース)から逆算して求めます。
このときも、「広告側の売上」ではなく、できるだけ受注データに基づいた一次データのLTVを基準にすると、計測制限の影響を受けにくくなります。
GAや広告管理画面とShop(受注)の数字が合わない時はどうする?
最初に確認すべきは、売上定義(税・送料・値引き・返品を含むかどうか)と、集計期間(タイムゾーンや日次締めの時刻)が揃っているかです。
そのうえで、重複計測の有無、クッキー同意拒否による欠損、アトリビューションモデルの違い、決済失敗やキャンセルの反映タイミングなどもチェックします。
最終的な正としてはShop(受注データ)を採用し、GAや広告管理画面のデータは「説明用(補助)」と位置づけることで、判断軸をブレさせない運用がしやすくなります。
分析は毎日見るべき?週次・月次で見るべき指標の分け方は?
短期で大きくブレやすい指標(セッション、日次CVR、在庫状況、広告費など)は、日次〜週次でのモニタリングが有効です。
一方で、粗利・コホート・LTV・回収期間といった指標は、変化を評価するまでに時間がかかるため、週次〜月次での確認が適しています。
いずれの指標も、変化の理由を説明できるように施策ログとセットで見ることで、数字の上下に一喜一憂せず、安定した運用判断ができるようになります。
まとめ:2025年のEC分析を継続的な武器にするには
2025年のEC分析では、計測制限やチャネルの複雑化を前提に、一次データを軸としたKPI設計とガバナンスがこれまで以上に重要になっています。
本記事でご紹介したように、まずは「同じ数字」を作るための定義・計測設計を整え、そのうえでファネル・収益性・顧客の3軸でKPIを体系化し、仮説→分解→検証→施策→学習のサイクルを回すことが、再現性のある改善につながります。
ROASやCVRといった一部指標だけに頼らず、LTVや貢献利益、アトリビューションの前提を含めて解釈することで、短期と中長期のバランスを取った意思決定が可能になります。
もし自社だけで設計や運用を進めるのが難しい場合は、ShopifyをはじめとするEC基盤の知見を持つ外部パートナーと連携し、データ基盤と運用体制をセットで整えることも選択肢のひとつです。






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